あるフィリピーナの過去 第5話 ⑥ 最終回

投稿日:2011年4月23日(土)

Kの腹痛は、翌朝も少し続いていた。
Kは、妹に電話をした。しかし、つながらなかった。
Wもつながらなかった。電波のないところにいるか、携帯の電源を切っているのかつながらない。
青年にも電話をした。しかし、青年は電話に出ようとしなかった。
Kはどうしたらよいのか、わからなくなってしまった。
部屋の隅に、紙切れが落ちていた。
そこには何かが書かれていた。
Wからの置き手紙だった。
「お前は、結局、あの青年を選んだね。俺の負けだ。俺は青年から、お前が彼の彼女になっていると聞いて最初はウソだと思った。お前たちが楽しそうにデートをし、モーテルに入ったのを見届けたよ。」
「子供は、俺の子供でもあるから、俺が引取って育てるよ。お前もお腹の子供とあの青年と仲良く幸せにやっていけよ。妹は残そうと思ったが、ここにいたくないと騒いだから連れて行くことにした。青年もいることだし寂しくないよな。
「短いお前との生活だったが、楽しかった。幸せになれよ。」
Kは、号泣した。
ようやく気づいたのだ、自分の大切なものを全て失ってしまったということを・・・・
取り返しのつかないことをしたということを・・・
それから、3年の月日が流れた・・・
Kは仕事を探すのに苦労をし、結局バーのダンサーとして働くしかなかった。
何人かの外国人と付き合ったが、KはWを忘れられないでいた。
Wほどやさしく接してくれた人はいなかったのだ・・・。
ある日、Kがショッピングモール内を歩いているとき、4人の家族が前から歩いてきた。
男性と女性、女性は赤ちゃんを抱っこしていた。そして、男性と3歳くらいの女の子が手を繋いでいた。
Kは、その家族に目を奪われた。
それはWと妹だったのだ。
幸せそうに見えるWの家族は、Kの前と通り過ぎていった。通り過ぎる際にWとKは、目が合った。
しかし、Wたちは、Kの存在がなかったかのように素通りしていった。
Wも妹もKに気づかなかったのだ・・・。
Kは3年前とは別人のようになっていた。
髪を赤く染め、化粧も濃く、どう見ても夜の店で働く女性にしか見えなかった。
Kは目に涙を浮かべ、足早にショッピングモールを後にした。
現在、彼女はミンダナオ島の実家に帰っている。
Wのもとに戻りたいと思っているようだ。しかし、もう過去には戻れない・・・。
妹からは、たまに実家に連絡が来ていた。Wといつの間にか結婚をしたのだという。
妹はWと一緒にアメリカで生活をしている。
本当ならばKがアメリカでWと暮らしているはずだった・・・。
フィリピンでは、たかが一時の快楽のために、大事なものを失ってしまったフィリピーナは数多くいる。
目の前のことしか見ていないフィリピーナは決して幸せにはなれない。
終わり
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「あるフィリピーナの過去 第5話 ⑥ 最終回」への11件のフィードバック

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